君が笑う、だから こうなることを、どこかで想定していた自分がいたらしい。 明らかに尋常でない状況下であるはずが、思ったよりも動揺していない。 けれど、これは賭けでもあった。 彼の中で、「源氏の神子を消す」という事象は、既に決定事項となっているはずだ。 恐らく、彼は躊躇わない。 少しずつ、彼が自分たちと距離を取り、“選んで」”く過程を、どうすることも出来ないまま見つめ続けるしかなかった自分には、悲しいくらいに分かってしまっていた。 柔和な苦笑を浮かべたままで、一つずつ、確実に切り落としていく。 穏やかな空気に。気弱な言葉に。 その通り誤魔化されていたのは、何も知らなかった頃。 ―――彼は、決めたら躊躇わない。 かちり。 小さな金属音に、一瞬の逡巡から我に返る。 「下ろしてください」 抑揚の無い、恐ろしく凪いだ水面のように静かな声が飛んだ。 同時に、斜め後ろから独特の高音が軋むのが聞こえる。 銃口をこちらに向けたまま、景時が小さく笑った。 その笑い方が、本当にいつもの通りで、こんな時なのにやけに胸に迫る。 彼の、目元だけでひっそりと微笑む仕草が好きだった。 蝉の声が降るあの熊野の夏。 あの時、その微笑に小さな影を見つけなければ。 そっと、見えないふりを続けていたなら。 もしかして私たちは、こんなに間近で、命の遣り取りなどせずに済んだのだろうか。 せめて―――互いの見えない場所で。 「先輩を撃つというのなら、俺があなたを射る」 ゆっくりと視線を逸らせたのは、景時の方だった。 引き金に人差し指を掛けたままの右手が、優美な線を描いて方向を変える。 「君に、オレが射れる?」 かつての相棒を煽るような台詞。 けれど、その声はどこまでも柔らかく。 「射れます」 微塵も揺るがない澄んだ声に、景時が呟く。 「・・・君はこんな時、迷いないな」 挑発するのでも、感心するのでもなく。 (そんな目しちゃ駄目だよ、景時さん) 泣きたかった。 静かに微笑む、彼の代わりに。 私はただ、泣きたかったのだ。 |
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書いてみたかったんです。あれです、無印8章の船上でのイベント。 銃口を向けられた瞬間、のぞみんが何を思ってどんな風に景時を見ていたのか。 個人的には、景時はこんな時、泣くより笑ってそうだなと思いまして。 (公式ムービー丸無視・笑) 泣けない人の笑顔は、涙よりも胸に迫ると思います。 2009.11.7 up |